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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

ブラジルの強さ



ブラジルが9回目のワールドリーグチャンピオンとなった。イタリアの8回を抜き、単独で最多優勝となった。
ブラジルはセルジオを欠き、ジバも本調子ではなく、準決勝でヴィソットを失い、決勝では、それに合わせてセッターも変えた。昨年の決勝とはスタメンが5人違う中での勝利はまさにブラジルという『王国』の力を感じた大会でもあった。
選手が違っても、素晴らしい成果をあげる。それは単に層が厚いという一言では片付けられない。

単に選手個人の力の総和で言えば、ブラジルはすでに世界一の座は降りているだろう。2004年から06年にかけては個人の力でもブラジルは群を抜いてはいたが。
それは今年のワールドリーグの個人賞にも現れていて、MVPを除けば、ブラジルで個人賞を獲得したのはベストリベロのマリオ一人だけだ。

チームの力と言ってしまえばそれまでだが、それを成すブラジルのシステムの根本にあるキーワードは、勝つための「ベスト」とはいったい何か?ということがあげられると思う。

正確にレセプションを返し、正確なトスをあげて、スパイクを決める。
強いサーブを打ってエースをとる、相手を崩して高いブロックで仕留める。
これが「バレーボール」の理想だ。だが現実的に考えたとき、このバレーを目指すことは、はたして勝つための「ベスト」だろうか?

ブラジル、少なくともレゼンデ監督はすべてのレセプションが正確に返らないことを理解している。すべてのトスが上手く上がらないことを理解している。すべてのスパイクが決まらないこと、すべてのブロックが止まらないことを理解している。
もちろんどんな監督だって頭では理解している。ただそれを消化して、戦術にまで昇華させることができる監督はほとんどいない。

ブラジルは強いサーブに対してはコート中央を目標として、レセプションをする。どんなサーブでも完璧に返すことは不可能だからだ。決勝を見てもロシアが何本もネットを超えたレセプションを打ち込まれるのに比べ、ブラジルのレセプションがネットを越えてダイレクトで打たれた局面は皆無だった。
ブラジルのスパイカーは悪いトスも上手く打つ。それは単に能力が高いというだけではなく、いいトスを待っていないからだ。期待していないのではない。よいトスを待って、悪いトスは打てないが、悪いトスを待って良いトスを打つことは容易だ。
体勢が不利な時、無理なプレーはしない。いちかばちかのプレーをしてミスを出すより、己のディフェンスに賭けた方が現実的だからだ。

つまりブラジルのバレーは強さの最高値がズバ抜けて高いのではなく、最低値がズバ抜けて高いのだ。

もちろんレゼンデは最高値の高さも追求している。すべてのスパイクを決めるための練習をしている。すべてのブロックを止めるための練習をしている。それをしなかったら、ただのミスの少ないチーム、それだけ。
つまりレゼンデは25-0の完全勝利を目指しながら、すべてのプレーが上手くいかないことを想定している理想主義のリアリストなのだ。

それはこんな場面にも現れる。
審判への抗議が一番激しいのはブラジルだ。まぁ、これは国民性ということもあるが、笛がなった後、抗議はするとしても彼らは笛がなるまでプレーをやめない。それは審判が、人間であり間違いがあること事を理解しているからだ。
彼らはアウトボールをよくとる。それは線審が人間でミスジャッジをする可能性まで考えているし、インボールをミスジャッジするより、アウトボールをとる方が勝つためにはベストな選択だからだ。確かにバレーボール的にはアウトボールは捕らなければそれに越したことはないが、ジャッジをする選手も人間なのだ。少なくともレゼンデ監督にはその思考がある。

100点のプレーを目指すと、当然リスクを背負い、50点のプレーも出るし、バレーボールという競技では0点、ましてやマイナスのプレーになってしまうこともある。レゼンデが目指しているのは建前では100点だが、本音ではリスクを冒さずに80点のバレーをすることではないかと考えている。