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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

ジョアン・ジョゼにみる低身長ミドルの生き方



ポルトガルジョアン・ジョゼというミドルブロッカーがいる。
ポルトガルのキャプテンも務めるベテラン選手で、2005年のワールドリーグで来日して、福澤デビュー戦の相手であったのも記憶に新しい。ポルトガルは昨年の世界選手権には出場できなかったが、昨年のユーロリーグ*1で優勝、今年のワールドリーグにも出場とトップレベルのチームなことに間違いはない。


この選手は、2002年世界選手権でベストブロッカーを取り、現在もドイツ、フリードリヒスハーフェンという強豪チームに所属しており、目下ドイツブンデスリーガでスパイク決定率、効果率、ともにトップを直走っている。そして、特筆すべきは彼がわずか194cmしかないという点である。動画を見ても、身長はジバとほとんど変わらない。
そもそも彼個人の特集動画がいくつかある点を見ても、彼が相当のプレーヤーであることはわかっていただけるだろう。


世界トップクラスのミドルは200cm超えが標準化してきている。昨年の世界選手権を見てみても、1位ブラジルが205cm-209cmの対角、2位キューバは202cm-206cm、3位セルビアが204cm-205cm、4位イタリアが202cm-200cm。世界のトップクラス全体を見ても200cmを割るミドルは、数えるほどしかいない。


伏見という超大型級のミドルが次世代に控えてはいるが、Vリーグを見回すと、ミドルの平均は193cmといったところか。194cmという身長は、日本では特段低いということにはならないが世界に出るとその差は歴然である。彼がどうやって、2mを超える選手達と渡り合っているか、は日本のミドルがどうやって世界のミドルと戦っていくかのヒントに十分なり得る。


日本では旧来から、高身長ミドルのクイックは高さで、低身長ミドルは速さで勝負するべしといった概念が定着しているところがある。ここでいう速さとはセッターの手から離れたボールを打つタイミングの速さのことである。つまりセッターのトスを空中で待って、そのトスの上がりはなを打つことが良いクイックと言われてきた。
しかし、動画を見たらわかるようにジョゼは、セッターがボールを触る前にジャンプすることはないし、ボールが軌道の頂点に達するよりはやくボールを打つこともまずない。むしろボールの落ち際を打つことも少なくない。日本風にいえば、「遅い」クイックということになる。


結局、日本的な速さでは打点が低くなり、速度が速いトスを打たなければならないことから、コースも限定される。相手のミドルの身長が低く、リードで対応しているなら、決まることも少なくないが、コミットされれば、むしろブロッカー有利にさえなりうる。ましてや通過点が低いのだから、相手の身長が高ければ、トスに反応してからでも、背伸びでタッチを取られてしまう。身長が低いから、速く打たなければならないのではなく、身長が低いからこそ、高い打点で打たなければならないのだ。


動画をみれば当然、お気づきだろうが、彼がストロングポイントとしているのは動きの幅と、コースの幅である。ステップでフェイクをかけてBクイックに入ると見せかけてAクイックを打ったり、空中で大きく横に跳んで、ブロッカーのいないスペースを突いている。もしブロックが目の前に来たとしても、多彩なコースでブロックをかわしている。旧日本式のピンポイントで合わせる「速いクイック」では絶対こんな真似はできない。


実際、リードブロックといっても、純粋にシー&レスポンスで対応することがトップクラスでも減ってきていると感じる。結局、ミドルの入り方に欺かれたりすることが多い。というよりは、高速なバレーボールが、ミドルのシー&レスポンス技術を低下させているのかもしれない。どうせ全てには対応できないのだから、という思考が彼らの上達を妨げているのではないかと感じるときがある。


20年前は、このジョゼのような幅を使ったプレーをするミドルは沢山いた。ただミドルのシー&レスポンス技術も高かったし、サイドのトスが遅いため、相手のサイドブロッカーのヘルプブロックも厚かった。つまり、センターエリアからボールが通るスペースが少なかったため、この幅を使うプレーは徐々に姿を消していったのはないか。
ただ近年のサイドアタッカーのファーストテンポ化によって、幅を使うクイックはまた「効くプレー」になっているのだと思う。サイドの高速化で実質1対1の局面が増えているからだ。


日本にも旧来、低身長ミドルは多かった。理知的なプレーが印象に残る白数選手(186cm)や、類い希なジャンプ力が記憶に残る末次選手(185cm)。クイックで3枚ブロックを抜いたという逸話のある三橋選手も186cmしかなかった。


ただ、どうしてもブロックの局面、特にセンターエリアの攻撃に対しては、低身長がネックになってしまうことは否めない。しかしそれでも高い駆け引きの技術、リードブロックの卓越した技術を身につければ、フォローできるはずであると信じたい。
今回、紹介したジョアン・ジョゼだって世界一のブロッカーになったことがあるのだから。

*1:ワールドリーグの欧州版、ワールドリーグに出られないチームが主に出場