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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

きょうのセッター番外編その2 カーチ・キライ

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(画質が粗いが、序盤でサーブを打つ白チーム31番)



「セッターだった」名選手を紹介している番外編。今日はあのカーチ・キライ。
今更、カーチ・キライの説明はしないが、一応、Wikipediaのリンクを貼っておく。
カーチ・キライ - Wikipedia


カーチ・キライは大学時代、ツーセッターの一角としてプレーしていた。
キライの在籍したUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の監督、アル・スケイツは2012年まで50シーズン、UCLAの監督を務め、そのうち19回全米チャンピオンに輝いており、この記録はすべての大学スポーツの中で最多である。またすべての試合の勝敗は1239勝290敗。この勝率81%もすべての大学スポーツの指導者の中で最高である。半世紀トップコーチであり続けたわけだから、畏敬の念しかわかない。


NCAA4連覇を含む特に勝率の高かった1970年代から80年代中盤まで彼は好んでツーセッターシステムを用いた。
カーチ・キライが1年生の時、無敗でNCAAチャンピオンになったが(動画の試合)、その時の対角は伝説的ビーチバレーボール選手のシンジン・スミス。
その次の年はドヴォラック、パワーズのいるUSCに決勝で敗れてしまうが、残りの年もキライのツーセッターで優勝。
大学時代、キライが出場した公式戦の成績は123勝5敗というのだから、驚愕である。


ちなみに現在UCLAアメリカ代表監督のスパローが指揮をとるが、最近またツーセッターシステムを用いているので、少しニヤニヤしてしまう。
3年前まではそのシンジン・スミスの息子がツーセッターやっていたのだから、歴史というのはおもしろい。


さて、カーチ・キライのセッティングであるが、重心が低く、いかにもビーチの選手といった趣。
なので、少し重たい感じのセットには見えるが、そつなくこなしている。ただ動画が粗いのとそこまで長くないので、あまりしっかりと判断できない。


動画はないのだが、キライはアメリカ代表でも一度セッターをしている。
ロス五輪で優勝した次の年、1985年の北中米選手権キューバとの決勝。ドヴォラックとストークが代表のセッターだったが、ドヴォラックが何らかの理由で不在、ストークも試合中に脱水症状でプレーできなくなり、4セット目からカーチ・キライがセッターをしたらしい。何とかその4セット目を取り、優勝した。大学時代のセッター経験がなければ、この優勝はなかったかもしれない。


セッターでも全米一が3回。まさにミスターバレーボールの称号にふさわしい。

きょうのセッターその24 パヴェウ・ザグムニ

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Rozgrywający im starszy, tym lepszy – podobnie jak wino.
セッターは古ければ古いほど良いーまさにワインのように
Paweł Zagumny – Wikicytaty

現在はポーランドリーグの会長を務めるパヴェウ・ザグムニ。2014年の世界選手権優勝に貢献。ポーランド人で唯一オリンピックに4回出場している選手となる。
前述の名言のように、まさに老獪という言葉の似合うリーダー。声を荒げるところも見たことないし、グルビッチと同様、静かに模範となってチームを引っ張るタイプだろう。

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セッティングも無駄な動きが少なく、高いハンドポジションからスパイカーにボールを供給していく。ハイセットにしてもほとんど力まず、最低限のエネルギーでボールを飛ばす。
ボールとのコンタクトポイントまでの移動の歩数が本当に少なく、ほぼ無意識なのだろうが、最初に長い歩幅、そして徐々に短くなるステップで調整する様はまさに熟練。
体幹の回転の力を活かしたバックセットが絶品で、ボールをタッチするまでの姿勢にはほとんど変わりがなく、ブロッカーがその姿勢からスパイカーを判断することは困難を極めるだろう。


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引退試合にこれだけ多くのスターが集まるところからも、彼が多くのプレーヤーの心の中に残っており、慕われていた様子がうかがえる。
そもそも引退間もなく、リーグの会長になるぐらいだから、かなり人望があり任せて大丈夫だと思わせるだけの信頼感があったのだと思う。

きょうのセッターその23 フランク・デペステレ


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この動画のパイプのタイミング、なかなかに攻めてる。


デペステレは主に2000年代に活躍したベルギーのセッターで、今年43歳になるが、まだ現役の左利きのセッターである。
あまり大きなタイトルはないが、約10年ベルギー代表のセッターであったし、母国ベルギー以外に7か国渡り歩いた傭兵セッターでもある。


セッターは左利きのほうが有利、というのは定説であるが、言うほど左利きのセッターがいないのではないか、ということに思い当たる。
そもそも左利きの人数は多くないので、気にするほどの問題ではないのかもしれないが、もっといてよい気もする。とはいえ、ここまでリカルド、ストークですで二人紹介しているし、全くいないというわけでもないので、何とも言えないのであるが、個人的には利き目の問題的にセット技術習得にはなかなか苦労をする、と考えている。ただそこまでの問題とも思えないし、左の強いツーアタックというのは大きなメリットだ。
やはり基本的には右利き目の方がセットはイージーだと考える。もちろん端から見ていて利き目なんてわからないのだが、バックセットの後、基本的にどちら回りでライト側に正対するかで利き目がわかるんじゃないかな、と思っている。右回りなら右利き目、左回りなら左利き目。あくまで個人的な手法なので確証はないし、信頼しないでほしい。それでいくと、たぶんグルビッチは左利き目だし、リカルドは右利き目。ただセットの技術的に回りが入っている場合もあるし、必ずしも当てはまらないとは思うので、都市伝説くらいに思っといていいだろう。


って、なんの話してたんだろう。そうだ、左利きのセッター。
デペステレは左利き、しかもスパイクやサーブの踏切は逆足なので、パッと見、かなり違和感のあるセッティングをする。
少しタメのある、若干ジャンプ落ち際のボールタッチであまり肩の向きというを気にしていない。バックセットはほとんど斜め45度バックセットといった感じ。
どうしても我々は定着したイメージというのがあるので、左軸でボール追っていく感じとか、かなり頭と離れたところでボールタッチするところに違和感はあるわけだが、別にこれはこれで面白いし、良いなと思う。


長い距離のセットがピタッとハマるんだ、デペステレは。
対角線となるコート奥からのセットが秀逸で、絶妙な軌道というのだろうか。


またデペステレが面白いのはサーブで、前述のように逆足なのでタイミングを外されるのかなかなか高い効果率を残していたように思う。
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きょうのセッターその22 アラン・ファビアーニ

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アラン・ファビアーニは1980年代に活躍したフランスのセッターで、今般パナソニックの監督になることが決まったフランス代表監督のティリ氏や現日本代表コーチのブラン氏がプレーしていたフランス代表のセッターということになる。ヨーロッパ選手権の準優勝やチャンピオンズリーグの準優勝などはあるが、そこまで大きなトロフィーを獲得しているわけではない。1986年世界選手権のベストセッターは受賞しているが、地元開催だし。


同時期に活躍した日本では「将軍」でおなじみのフランスのサッカー選手と重ねて、「バレーボールのプラティニ」と呼ばれていたようだ。
姓の語尾が少し似ていること、正確なパスを配給すること、ナポレオンよろしくコート上でのリーダーシップ、ゲームを一つ上の視点から俯瞰で見ているところなどを重ねているようだ。プラティニフリーキックの軌道とファビアーニのセットの軌道を重ねる記事もあり、それはさすがにロマンチシズムに走りすぎ感はあるが、それはそれで面白い視点だと思う。
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プレーはテクニックお化けといった感じ。ボールが手に吸い付く、とは彼のことを言うのだろう。80年代のマルーフといったところ。
フランスというイメージに引きずられているところは大きいのだが、フランスの選手って色気があるし、ケレン味たっぷりという感じでやっぱり見ていて楽しい。

きょうのセッターその21 マイカ・クリステンソン

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現在モデナでプレーするアメリカのクリステンソンの代表デビューは2013年。
2013年のグラチャンでは思うような成果とはいかなかったものの(5位)、20歳でサイズがあって、サーブが強くて、ブロックが良いモダンなセッターが突然現れたのだから、驚いた。
その後、大学を卒業して、イタリアに行き、16/17シーズンはスクデット獲得。2008年世界選手権ではベストセッターに輝いた。


アメリカにはプロリーグはないため、基本的には大学卒業と同時に海外のクラブに行かなければならない(在学中から行く選手もいるが)。
F1なんかでもそうなんだけど、イタリアセリエAにおいては、ヨーロッパの外からくる若い選手が最初から上位の4チーム、ルーベ、トレント、モデナ、ペルージャに入ることはまずない。まずは中位、下位のチーム、もしくは周辺の国のチームにまず入って、そこで実力を見せて初めてトップチームに移籍する、という流れが一般的である。アンダーソンだってプロキャリアの最初は韓国だし、サンダーもホルトもヴェローナから。クリステンソンと同じ歳で同時にイタリアに行ったラッセルはペルージャだったが、最初からスタメン確定という感じではなく、リーグ半ばからポジションを奪った。クリステンソンは最初からスタメンセッターとしてルーベに招かれた。ラッセルとどちらも大学時代から、すでに代表で活躍していたから、ということもできようが、今後もなかなかそういう選手は出てこないだろう。

 
クリステンソンはミドルとパイプの使い方が上手く、使用率も高め
他のセッターよりは少し肘を柔らかく使い、ボールタッチ時間も少し長いが、持っているという感じはほとんどない。少し柔らかいセッティングと言えようか。その若干の柔らかさがクイックとパイプの見分けを非常に困難にしている。
ミドルを使えるセッターは度胸がある、と表現されることが多いが、クリステンソンにとっては少しそぐわない表現にも思える。ミドルにセットするときには、固くなるというかこわばるセッターも多いのだが、クリステンソンは自然にミドルを使い、パイプを使う。
あと右利きなのに、左利きのごとく左手で強いツーアタックを打てるのはすごい。


クリステンソンとジャネッリはどちらがより良いセッターか、というおそらくは答えの出ない愉しい議論を今後7,8年は続けられることを素直に喜ぶべきだろう。