Stay Foolish

バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

2014世界選手権決勝ポーランド-ブラジルのレビュー




Photo by FIVB
今日は世界選手権決勝、ブラジル対ポーランドのレビューをしていきたいと思います。


動画を見ながら講釈垂れたいところではありますが、残念ながら今大会のフル動画は、著作権者によって軒並み削除されているんですね。当然といえば当然ですが、なにぶんテキストなしにこういう話をするのもなかなかしんどいものがありましてね。どうしたらいいでしょうと考えていましたが、とりあえず次善の策でなかなかいい手を見つけました。


これですね。
http://volleyballtracking.com/MWCH2014/



今大会、3次ラウンド以降の試合はトラッキングデータが公開されており、選手の動きをラリーごとに見ることができるわけです。これで話を進めていきたいと思います。点数でリンク貼れたらベストでしたが、それはほしがり過ぎでしょう。
トラッキングシステムはバレーボールをどう変えるか - Stay Foolish
で、観戦が楽しくなるかもという話をしましたが、思ったよりもはやく実現することが出来ました。
とはいえ、動画も見たいという方はね、下のリンククリックするといいことあると思います。
http://video.worldofvolley.com/upload/mediaData/2014/9/4/game71550/ef1412415864388.mp4




さて、この試合の感想を一言で述べるならば、「レゼンデなにやってんの?」というものでした。
修正が遅く、交替もほぼルーチンワークに終始し、勝つ気があったのかすら疑うレベルでした。


第1セットのスタメンは以下。

ブラジルの思い通りだった第1セット

第1セット、ポーランドはオポジットのヴラズウィ中心に攻めますが、当然ブラジルはそれまでのデータから織り込み済みなわけで、ブラジルお得意のデディケイトを放棄してヴラズウィに一枚しっかりとマークにつくというシステムでヴラズウィの決定率を下げることが出来ました。

これは1セット目9:4の場面のブロックの位置取り。10番のルカレッリがヴラズウィの攻撃に対して準備しています。この場面は決められてしまいますが、意図がはっきり見える位置取りをしています。


対してブラジルのオフェンスですが、この試合まではルーカスを軸に組立ており、特にCクイックは勝負所でも使う鉄板でした。


ポーランドはそれに対する準備はしていましたが、そこはブルーノが一枚上手で少し目先を変え、ルーカスを多用せずに他から攻めてしました。この18:12の場面なんかは顕著で、ルーカスのCの入りにミドルが少し反応してしまったところでパイプを使うなど、攻守ともにブラジルの思惑がうまくはまった第一セットでした。

ポーランドの逆襲

この試合、ポーランド逆襲のターニングポイントは二つありました。
まず2セット目中盤、ポーランドがフローターサーブをムリロからリベロのマリオJrに狙いを変えたこと。


スクリーンの位置も変えていることから、チームとして狙いを変えたのがわかります。


上が1セット目のノヴァコフスキのフローターサーブの瞬間、下が3セット目のもの。向きを合わせるために3セット目のものを使いましたが、2セット目中盤からこのような形でした。上はサーバーと8番ムリロの間に立っていますが、下は19番マリオJrの視界を狭めています。
(※注 スクリーンは反則行為ですが、運用レベルでは笛を吹かれたことを見たことがなく、実質やったもの勝ちみたいな形になっています。)



たぶん2セット目以降、ポーランドがブレイクしているのは、ほとんどフローターサーブの時だと思います。
準決勝あたりからぼろが出始めていたんですけど、マリオJrはフローターの処理がたいしてうまくないです。4セット目、ブラジルが20-17からの逆転を許したのもマリオJrのサーブレシーブがネットをこえてしまったのがきっかけでした。
全体的には返るには返るので数字的に悪いわけではないのですが、攻撃のリズムが作りにくい返球がやたら多いんです。


うまいレシーバーっていうのは、ボールを取る前にできている面や体勢で、どこにボールが返るかっていうのがおおよそ回りの選手に伝わります。それによって、セッターもよりよい準備ができ、スパイカーもテンポをはかりやすいわけです。つまり攻撃の準備がサーブレシーブを返す前に始められるんですね。マリオJrがとった時のブラジルというのはそれが出来ていませんでした。


マリオJrが狙われたことで、それ以降明らかにフローターサーブに対するサイドアウト率が下がったわけですが、レゼンデは最後までこれに対して手を打ちませんでした。ベンチにはもう一人リベロがいましたが、ブレイク専用。ブレイク専用とはいえ、サーブレシーブもこの試合のマリオJrよりは良かったと思うのですが。せめてルカレッリをサーブレシーブに参加させてフローターも3枚でとるというチョイスがあってもよかったと思うのですがね。


フランスの話の時にも述べたのですが、この大会で上位になったチームというのは、ジャンプフローターサーブを使う割合が非常に増えていました。これは今後、トレンドになってくると思います。
ジャンプサーブでも強いサーブを打て、なおかつフローターとジャンプを使い分けるという選手が大勢いました。ブラジルはブルーノ、ルーカス、シダオあたりは使い分け、ウォレスは同じトスからジャンプサーブとフローターサーブを使い分けることが出来ました。ポーランドには使い分ける選手はいなかったのですが、前述のようにフローターサーブを使う選手が多かったです。
理由を考えてみると、やはりリスクマネジメントの観点から、連続でサーブミスをすることを避けたいというのが一つ。そして、このように短い期間で多数の試合をこなす場合、データが蓄積でき相手の攻撃傾向が顕著になってくるため、ディフェンスに託したほうがリスクをとるより現実的という理由も考えられます。また、フローターサーブでも十分に相手を崩すことができるようになったことも大きな理由の一つでしょう。このあたりは、男子バレーの女子化ということもできるかもしれません。女子バレーに男子の要素が多く取り入られるように、男子も女子の世界にアンテナを張っており、取り入れられることは今後もあるかもしれません。




さて、話を戻します。
二つ目はポーランドが2セット目終盤からセッターをザグムニに替えたこと。
前述のフローターサーブでポーランドは2セット目17:11としますが、ブルーノのサーブから6連続得点で17:17のイーブンに戻されてしまいます。ブルーノのサーブが走ったこともありますが、ここはセッターのジズガがマークをついているヴラズウィを避け、クイックを使ったのですがそれを読まれてて詰まってしまったもの。


これを切り抜けたアンティガはセッターを替えます。
大会序盤、ポーランドはザグムニでスタートしていましたが、ジズガのほうが回りがよく、この決勝もジズガがスタート。とはいえ、まだ若いジズガは経験もなく、決勝の大舞台にやられてしまったのか、第1セットはオポのヴラズウィに偏ってしまったのは前述のとおり。


替わったザグムニはサイドのミカを多用し、これがうまくはまりました。
やはりジズガがバカ正直だった部分が大きく、ザグムニの老獪さとのギャップにブラジルが翻弄されたとも言えます。


これにあせったブラジルはサーブミスが増え、それに対してレゼンデがとった策もブルーノ、ルカオ、シダオにまでフローターを打たせるというもの。フローターサーブがトレンドとは前述しましたが、あくまでバランスの中の話で、ここまでフローター増やしちゃうとポーランドのオフェンスも好き勝手できるようになっちゃってました。ちょっと頓珍漢な采配だったかなと思います。


勝負を決めたのはこのラリーでしょう。


地元開催が大きかったポーランド

というわけで、攻撃と守備のリズムと取り戻したポーランドが2,3,4セットを連取し、1974年以来の優勝を決めました。やはり地元開催であったというのは、ポーランドにとって優勝の大きな要因の一つであったように思います。あのすばらしい応援はもちろんなのですが、私がポイントに感じたのは、今まで代表を離れていたベテランが地元開催の世界選手権だからこそ代表に復帰したという部分です。ヴラズウィは監督との不和から2009年以降代表を離れており、6年ぶりの復帰でした。同じくザグムニもロンドンを最後に代表には選ばれていませんでした。
この二人もこの大会を最後に代表引退を表明。


もちろん地元だからという理由だけではないとは思います。アンティガ監督が前年までヴラズウィの同僚だったという部分も彼の復帰の大きなファクターであったに違いありません。


そういった人事も含めたポーランドという国の優勝であるということを感じた大会でした。