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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

東洋の魔女のセッターシステム解説するよ



とあるところからリクエストをいただいたので、ちょっと書いてみます。
先週末のバレーボール学会でセッターの歴史でもやったんですかね、東洋の魔女のオフェンスシステムが気になるということで、変則システム評論家のわたくしがちょっと解説してみます。


とはいっても、そこまで当時に詳しいわけではなく、映像からわかることを列挙し、そこから推察したことも多いので、そのあたりはご了承ください。




バレーボールでは、基本的なチーム構成を説明する際に「(スパイカーの人数)-(セッター人数)システム」という言い方をします。たとえば現在標準的なのは「5-1システム」スパイカー5人にセッター1人のシステム。これがツーセッターになると「6-2システム」になり、先日ご紹介したリベロセッターシステムだと「6-1システム」(6-0といえんこともない)ということになります。


この東洋の魔女のシステムを説明するならば、6人セッターして6人が打つ「6-6システム」、また厳密に今の定義に当てはめるならば「5-5システム」ということになります。これは後程。ただ非常に複雑なシステムと言えます。
特徴として、ボールの飛んだゾーンによって、セッターが頻繁に変わります。つまり常時コート上にセッターが複数いるイメージです。現行のツーセッターは複数セッターといっても、ローテーションごとにセッターの役割をするのは一人ですが、このシステムは常に複数いる形になります。

まず簡単にチーム構成を見ていきますが、基本的に背番号ベースですのでもしかしたら名前が一致していないかもしれません。間違っていたら申し訳ありません。
1番の河西昌枝選手が基本的にはメインセッターということになります。セッティング技術としても一番で選手間の信頼も厚いことが映像から見受けられます。基本的に1番河西選手がシステムの中でスパイクを打つことはありません。それがスパイカーは厳密には5人といった理由です。ただ当時はブロックが1タッチに数えられたため、前衛でミドルでブロックを跳ぶ河西選手が3本目(今なら2本目)を打って返す局面も少なくありません。
ローテーションに応じてはサーブレシーブも行います。
2番の宮本恵美子選手はチーム唯一の左利きで、ある意味チームの軸でもあります。前衛でのライトからのスパイク、後衛ではもちろんレシーバー、そしていわば第3セッター的な役割も果たします。
5番の松村好子選手はスパイクも打ちますが、どちらかと言えば第2セッターという役割のほうが大きいように思います。またサーブレシーブの要でもあると思います。
3番の谷田絹子選手がいわばチームのエース。チームの得点源です。この3番谷田選手はシステムの中でセッターをすることがないのがセッター5人とした理由です。
また4番半田百合子選手はパス、トス、スパイクと3拍子揃った選手。
6番磯部サタ選手は攻撃力に優れた選手です。


ではローテーションごとに見ていきましょう。
1番河西選手がバックライトにいるローテーションをP(osition)1として話を進めていきます。

Wフォーメーションで基本的に5人でサーブレシーブをするのは、全ローテ共通になります。またどのローテーションも両サイドからの攻撃が基本となります。
このP1ではバックライトにいる河西選手が前に出てきて、セットアップします。
ネット際に張り付くわけではなく、ネットから2.5mくらいのところをセッターの定位置としています。
前述のように河西選手がセッターはセッターなのですが、動く範囲としてはあまり広くなく、コート左側は主に5番松村選手がセットに行く割合が多いです。
その辺はちょっと図にしてみました。



大体こんな感じでコートを区分してる感じで、白いエリアは1番河西選手が、黄色のエリアは5番松村選手が、緑のエリアは3番谷田選手が、ピンクのエリアは6番磯部選手がトスを上げに行くようなイメージです。そうはいっても間のボールなんかは1番河西選手や、5番松村選手といったセットの得意な選手が広めにとってるように思います。
5番松村選手がサーブレシーブしなかった場合はスーッと前に出てきてコート左側に飛んできたボールはセットアップします。
つまり、2本目をボールの飛んだ近くの選手が上げることによって攻撃の枚数よりトスの質にこだわったということでしょう。



第2ローテ、これがこのシステムのおもしろいところ(当時は普通だったのかも?)のですがP2以外、バックライトにいる選手がサーブレシーブからの攻撃ではセッターの役割をします。
このローテでは4番半田選手セッターの役割ということになります。
セッターの役割というと語弊があるのですが、サーブレシーブを免除され、セットにより重きを置く選手といったほうが正しいでしょうか。
ただこの選手はレシーブがぴったり返ってきたときだけセットし、それ以外は1番河西選手や5番松村選手がヘルプに来ることが多いです。
5番松村選手は真ん中のセミを打つこともありますが、コート左側のセッターの役割が強いです。イメージ的にはぴったり返ったら4番がセッター、それ以外のコート右側は1番がセッター、左側は5番という感じでしょうか。


前のローテもそうなんですが、P1、P2以外、1番河西選手はサーブレシーブに参加します。サーブレシーブをしなかった場合は前に出てきて主にコート左側のセットアップを担当します。
決勝の3セットなんかは14-4くらいから一気に追いつかれてしまうのですが、やはり1番河西選手がサーブで狙われてしまい、誰がセットしに行くのかという部分で混乱したところがあります。

1番河西選手は前衛に上がると、スパイクに入ることはなく、基本的には補助セッターという形になります。サーブレシーブには参加しますけどね。真ん中に飛んだボールなどは、本来セッターの役目の6番磯部選手より1番河西選手がセットに行くほうが多いです。



ここは5番、1番のダブルセッターという感じになります。



P2は若干変則になります。左利きである宮本選手がライトまで走り、得意なポジションから攻撃。河西選手もライト側にいるため、このローテではバックライトの選手がセッターをせず河西選手がメインで上げます。コート左側に関しては主に6番が補助セッターになるのだと思います。




これはオフェンスシステムですが、ブレイク時はミドルで跳ぶ選手がメインセッター、バックライト、バックレフトがそれぞれ補助セッターみたいな形になります。
1番河西選手が3回、5番松村選手が2回、4番半田選手が1回ブレイク時はミドルで跳んでセッターとなります。


セッターが複数いるので、誰が2本目に行くのかというのが非常に複雑で、誰が1本目をとったかによってそれぞれの選手の2本目の責任範囲も変わります。
おそらくは想像を絶する量の反復によってパターン化していったものと思われます。今、これを再現しようとすれば、多くのボールがお見合いでコートに落ちてしまうのではないでしょうか。


繰り返しになりますが、2本目をしっかり上げるという目的からの複数セッターシステムだと思います。ぴったり返ったボールならバックライトに入った誰でもあげられる。それ以外のボールを1番、5番、2番の選手が主にカバーしていこうというシステムです。全選手がスパイク、レシーブ、セットとすべてのスキルができなければできないシステムでもあります。
この域まで到達するまでの練習に日月を捧げた彼女たち、大松監督にただただ敬意を払うばかりであります。