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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

『スタートレック』と『地球の危機』のはなし



地球の危機 [DVD]

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  • 発売日: 2004/01/16
  • メディア: DVD


こんなタイトルでも、しっかりバレーボールの話だ。ご安心を。
ブラジルには、この二つのSF映像作品から名をもらったバレーボールのプレーが存在しており、ブラジルのバレー用語として、定着している。
それぞれブラジルでは”Jornada nas estrelas(スタートレック)"、"Viagem ao fundo do mar(地球の危機)"と呼ばれている。『地球の危機』は邦題ではかなり意訳が過ぎるのでわかりにくいのだが、直訳すると『海底への旅』。
ご存じ『スタートレック』は宇宙を舞台にしたスペースアドベンチャー、『地球の危機(海底への旅)』は原子力潜水艦が様々なミッションに挑むというもの。
宇宙と海底、最も高い場所と低い場所を目指すバレーボールのプレーとは何なのか。


題名からのイメージでおおよそつかめるかもしれないが、『スタートレック』は天井サーブ、『地球の危機(海底への旅)』はジャンプスピンサーブを指す。
それぞれ80年代前半のブラジルの躍進とともに名付けられたようだ。それでは『地球の危機(海底への旅)』の話からしよう。


84年のロサンジェルスオリンピック。カーチ・キライ擁するアメリカが優勝したわけだが、実は予選リーグでこの大会唯一の1敗を喫している。その相手がブラジルだ。
そのブラジルが勝因がまさにジャンプスピンサーブ。アメリカは現代表監督のダルゾット、強打のモンタナーロ、セッターのウィリアムのジャンプサーブに全く手を焼いた。
なぜなら、それが世界大会で初めて放たれたジャンプスピンサーブだったからだ。つまり、ジャンプサーブを世界に広めたのはブラジルなのだ。1960年台からブラジル国内では散発的に行われていたプレーらしいし、アリー・セリンジャーは1955年にはもうジャンプサーブを打つ選手はいたと仰っているが、本格的にチームに取り入れ、大きな世界大会で3人もの選手が常にジャンプサーブを打つというのは、この84ロス五輪が初であった。


決勝では負けてしまったが、このジャンプサーブ開発の経緯は2013年にドキュメンタリー化されており、youtubeで視聴できる。上記の3人がロスアンジェルスを訪ねるというもの。ポルトガル語が全くわからんけど…。
『地球の危機(海底への旅)』と誰が名付けたかまでは調べきれなかったが、やはりスピンを描き、地面に落ちていく軌道と潜水艦の姿を重ねたのだろう。

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ブラジルでは、現代でもジャンプサーブは直訳「海底への旅」と呼ばれたり、単に「旅サーブ」と呼ばれるようだ。なんだよ、旅サーブって。
 


スタートレック』が天井サーブというのも、なかなかオツなものである。
ブラジルでは、天井サーブもブラジル発祥であるといわれているようだが、それには異議を唱えたい。ブラジルで言われているところでは、同じく80年台に活躍したベルナルド・ライズマンがビーチなどで行われるスカイサーブに着想を得て、1982年の世界大会で初めて行ったということにウィキペディアではなっているようだ。同項には、ブラジル国内でその後、ライズマンが発祥ではなく、1950年台から誰それがやってたという論争が起きた経緯も書かれている。最終的には国際大会でやったのはライズマンだ、で落ち着いたらしいのだが、そもそも猫田勝敏が1977年のワールドカップで普通に天井サーブ打っているのだ。

https://youtu.be/jesO-djZaHc?t=288


確かに、猫田氏が世界で最初に行ったという旨の文献も多いのだが、松平の書いた技術書『WINNING VOLLEYBALL』(pdf、邦題不明)によれば、天井サーブはチェコスロバキア発祥で、ムシルとゴリアンというセッターがメキシコ五輪(1968)で打っていたという。松平氏がいうのだから、猫田氏が世界で最初にやったというのはさすがに無理がある。そもそも1970年代以前は国際大会でも屋外でやっていたことも多いだろうから、天井サーブの起源というのはかなり古いと思う。
やはり当時はインターネットもなかったし、それぞれの国にそれぞれの言い分があってもなんらおかしくはない。個人的には、歴史学者の愉しみというのがわかってきて面白いのだが。


ただ、ブラジルのマラカナンスタジアムで行われたエキシビジョン、95,000人が入ったブラジル-ソ連でライズマンによって放たれた天井サーブ(天井ないからスカイサーブ)は伝説的だ。

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個人的に天井サーブといえば栗生澤淳一と楊成太

youtu.be


楊成太東京体育館でV優勝した時に天井のスピーカーに天井サーブでボールをのっけたって話が月バレだかに載ってて、なんだよそのカッコよさ、という記憶が強く残っている。
あとやっぱり今でも見られる天井サーブとしてはビーチバレーのカランブラ。
やはり屋外では風も吹くし、遠近感もつかみづらく有効なサーブといえるだろう。
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このように映像作品からプレーの名がつけられるというのは、なかなか珍しい例だとは思うが、プレーが大衆化しているということは、バレーボールが人気があった証拠でもあろう。92年に世界を驚かせ、2000年代初頭リカルドによって完成を見たスピーディーなバレーをはじめ、ジャンプサーブといい、やはりブラジルという国がバレーボールに与えた影響は多大である。


84年ロスはアメリカが優勝した分、リードブロック、2人サーブレシーブを開発したという点が取りざたされてしまうのだが、ジャンプサーブを打つ選手がこれだけ増え、サーブの重要性が高まっている昨今、ブラジルがジャンプサーブを汎用化したっていうのは、もうちょっと認知されるべき事象かなぁ、と思う。