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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

きょうのセッターその49 レイデル・イエレスエロ

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「ツーアタック」というのは和製バレーボール用語であり、基本的に外国人には通じない。英語では「ダンプ」もしくは「セッターダンプ」が一般的であるが、ブラジルでは「Bola de Segunda」、直訳だとセカンドボールと言ったりもするので、ツーアタックも全く通じないということはないだろう。
あまり左利きのセッターも多くないし、強いサーブが増えたので、セッターがツーアタックを行える機会も減っているだろうから、ジェフ・ストークほどバシバシツーアタックしてくるセッターというのはあまり見なくなったが、キューバのレイデル・イエレスエロは近年ではかなりツーを打つセッターに分類することができるだろう。


例えば昨季、彼が所属していたトルコのジラートバンクのスタッツを見てみよう。
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チームごとに各選手の成績が見られるのだが、彼の二人上に位置しているGOK EMIN選手はスタメンのミドル。サーブの打数が300少し越えるくらいでほぼイエレスエロと同数なので、プレー時間的にはほぼ同じと推定される。そのエミンのスパイク打数が154でイエレスエロが114。セットあたり換算だとエミン1.82本、イエレスエロが1.31本となる。ミドルで1.82本も少し少ないが、セッターで1セット1.31本というのは毎セット必ずツーをしている計算になる。


イタリアでも3シーズンプレーしているが、3シーズン合わせてセット当たり1.30本と安定している。これを例えば他のセッターと比べると、ジャネッリがセット0.78本デ・セッコで0.63本クリステンソンで0.59本ブルーノで0.53本となる。大体2セットで1本から1.5本の間に収まる。もちろん統計で記録される打数にはダイレクトアタックなども含まれるので一概には言えないが、セット1本を越える打数がいかに多いかというのはお分かりだろう。


ちなみにストークを調べてみたが、時代が古くて出場試合数はわかるものの、出場セット数がわからないので雑な計算にはなってしまうが(試合数に4をかけて出場セットということにした)、打数はセット1.8本という結果になった。
サイドアウト制で1セットの長さが違うので単純な比較はできないが、1セットに約2本近く打っていることになる。
サーブ打数との比率ならルールに関係なく、ツーアタックの頻度が出せそうなので、こちらも一応やってみると、ストークサーブ1本につき0.32本のアタック打数、比較でブルーノは0.13本、イエレスエロが0.37本となった。これもサーブの強さなんかも関係してくるので、一概には言えないが、イエレスエロはストークより、ツーアタックの頻度が高かった可能性がある。


2009、2010年のキューバには誰もが夢を見た。レオン、レアル、シモン。その前10年間ブラジルが握っていた世界の覇権があと数年でキューバに移る。そんなことを感じさせた2009年グラチャンと2010年の世界選手権だった。
しかしその夢は翌年にはすぐ潰える。レアルが消え、シモンが消え、イエルスエロが消えた。2013年にはレオンも消え完全に雲散霧消。そしてレオンのポーランド国籍取得、レアルのブラジル国籍取得と各国に夢が散らばった。
近年、キューバも態度を軟化させ、2020東京五輪予選では結局シモンのみが出場したが、イエレスエロ、サンチェスもキューバナショナルチームに戻ることが発表された*1。この先、海外でプレーしている選手も代表でプレーできるということが続けば、またキューバに夢を見ることができる日が来るかもしれない。

きょうのセッターその48 マルセロ・エルガートン

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リカルドが去ったブラジルの、ブルーノまでのつなぎのセッターという位置づけになってしまうのだろうが、マルセリーニョことマルセロ・エルガートンは、十分にレジェンドと呼ばれるに値する実績を残している。
リカルドがチームを後にしたのは2007年のこと。そのあとのワールドカップは優勝するが、2008年のワールドリーグ、北京オリンピックで優勝することはできなかった。


サイドに打たせる精度だけでいえば、マルセリーニョのほうが上だったかもしれない。ただセッターがリカルドからマルセロに変わったことで予測不可能性が失われてしまった。何をしてくるかわからない怖さがリカルドのいないブラジルには決定的に欠けてしまった。具体的にはミドルを使えるエリアが狭くなった事が挙げられる。対戦相手はリカルドのあらゆるところからミドルを使ってくるオフェンスに、結局最後まで的を絞れなかったのだ。


マルセリーニョが下手だという話ではない。リカルドほどではないにしても、ある程度広い範囲からミドルを使えるセッターだ。
あくまで推測であるが、リカルドがいないから負けたと言われたくはないという思いが、リスクを抑えたサイド中心のトス回しに終始してしまった原因ではないだろうか。


ジバがヨーロッパのクラブであまり大きな実績を上げられていないことに代表されるように、あの強かった頃のブラジルで、個体としての能力だけをもって「スペシャル」と呼べたのはセルジオ、グスタボ、ダンテぐらいなものだと思う。などと言うと少し語弊があるのだが、その他の選手が大したことないと言いたいわけではないので、そこはご留意願いたい。2000年代最高の選手は紛れもなくジバだ。


何が言いたいかっていうと、そもそもあの時代のブラジルの強さはリカルドの織りなす予測不可能性に立脚したものだった。ただ、それもスパイカーに突出した選手がいなかったからこそ出来たこととも言える。
これが例えば、あの時代で言えばスタンリーやミリュコビッチみたいな爆撃機みたいな選手がブラジルにいたら話は変わっていたと思う。やはりその選手にボールは集まるだろうし、大事なところでトスが上がって来ないとその選手もストレスを溜める。もしそんな選手がいたら、マルセロのほうがスタメンになっていてもおかしくない。
結局のところ、最強を誇った2000年代中盤のブラジルは個の能力が突出していたのではなく、ユニットとしての能力が抜群だったのだ。一人ひとりに役割があり、責任がある素敵なファミリーであった。
そんな中でマルセロも、相手がリカルドの予測不可能に振り回されている時に、アンデルソンと2枚替えで出てきて、シンプルなトス回しで逆に相手を混乱させたことが一度や二度ではない。


て、3分の2ぐらいリカルドの話をしてしまった気がするが、マルセロはブラジルリーグ5回勝ってるし、ギリシャ時代にもチャンピオンズリーグ上位にも進出しているなど、クラブの実績だけで言えばリカルドともどっこいだし、むしろマルセロの方が上だ。
そんなマルセロも昨年44歳で引退した。どちらかと言えばクレイジーに見えるブラジルのセッターが多い中、実に普通の人格の方に見えるので、指導者として戻ってきていただきたいなと思う。

きょうのセッターその47 眞鍋政義

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今では前日本女子代表監督としてのほうが有名であるが、しっかり歴史に名を残しているセッターの一人だ。
新日鐵での日本リーグの三連覇や、セッターとしてここまでで唯一イタリアセリエAでもプレーした。イタリアではあまり多くの試合には出ておらず、動画も見つからない。残念。
22歳で代表入りして、ソウル五輪も出場。キャリア後半で再び全日本に復帰したこともあり、セッターとして3回以上の世界選手権出場はおそらく猫田勝敏(4回)、眞鍋政義阿部裕太の3人のみ。


ボールに優しいタッチが特徴で、コンタクトポイントは低く、顔の近くでボールを扱う。特に晩年はその傾向が強く、動画の1998世界選手権スペイン戦のファラスカのボールを扱う位置と比べれば歴然である。
優しいというと手首を柔らかく使う、持つようなイメージになってしまうかもしれないが、球離れは早く、タッチしている時間も短い。キレが良い。引き付けて上げるようなセッティングは間ができるので、相手ミドルが思わずミドルに反応してしまう。
また1980年代前半と考えれば190㎝前後の身長は、かなりの大型セッターの部類であったと思う。


味方にしろ、相手にしろ小さい所作から今日の調子をつかんだり、意図を読んだりする「観察力」の高さもセッターにとって必要な能力の一つであるだろう。
監督時代のインタビューなどからも伺えるが、人の心を引き付けて動かすという面に優れているいわゆる「人たらし」であると思う。
いろいろなタイプがいるが、眞鍋氏は細かい気配りに長けたセッターだったと思う。ただ尽くせばいいというわけでもなく、なだめすかしてこき使う、そんなずる賢さを兼ね備えている。
大なり小なりそういった腹黒い部分にはセッターには必要であろうと、眞鍋氏を見て感じるのであった。



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きょうのセッターその46 パオロ・トフォリ


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イタリア黄金世代の中心セッターにも関わらず、いかんせん影が薄い。
あっと驚くというハンドリングでブロックを欺くということは殆どないが、セッティングは正確で、同じリズムでスパイカーを使い分け、ネットから離れたところからミドルも使える。
安定性があって、戦略的な組み立てができてリーダーシップもある。


ん?そう考えるとトフォリって実はものすごい良いセッターなんじゃないか。
セッターというのはこういうところが難しくて、目立たないほどすごいケースというのがあるからだ。結局そこがセッターがアメフトのクォーターバックに例えられることが多いながらも、セッターをクォーターバックに例えてはいけないと言うひともいる*1所以で、良いクォーターバックは間違いなくスターであるが、セッターは必ずしもスターではない、ということだ。


世界選手権を2回優勝、ヨーロッパ選手権にいたっては4回優勝。スクデット獲得は3回。
これでオリンピック優勝でもあれば、それこそもっとレジェンド扱いされていいのだが。実績だけの話でいえば、ブランジェとマウリシオがバレーボール殿堂入りしてて、トフォリが入ってないってのは、オリンピックを勝ってるか否かの差に過ぎない。トロフィーの数でいえば、彼ら二人が入ってトフォリが入らないというのはありえない。


そんなトフォリに先程の記事内の以下の文を贈りたい。

setters who ache for the limelight are more likely to hurt their team than to make it better.
脚光を浴びるセッターは、チームをより良くするよりもチームを傷つける可能性が高くなる。
Jim Iams

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きょうのセッターその45 ルチアーノ・デ・セッコ

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常にひらめきがあって、それを実現するだけのテクニックがある。
少しひらめきに従い過ぎて、ゲーム全体の筋書きが破綻することはあるけれど、それは今後更に改善する問題だろう。
とはいえ、特にセリエAの上位のような、代表よりも攻撃力の総和が高いチームでは行儀の良いセッター、つまり予想されうることをただこなすセッターは避けられる傾向にある。もちろんスパイカーに能力を発揮させることは大前提であるが、多少のリスクを負って相手の想定外を産み出していくこともトップのセッターには求められる。
やはりその点において1、2の能力を誇るのがデ・セッコだろう。


そのひらめきはセットだけではなく、サーブでもブロックでも、ふと気づくとデ・セッコはなにかの工夫をしている。
前後左右にスピンとフロートを使い分けて揺さぶるサーブとそこまで高いとは言えないまでも場所を直前で変えてみたり、引いたり出したりを駆使するブロック。相手にしてみれば非常に嫌な選手、味方にしてみれば大変頼もしい選手と言えるだろう。


アルゼンチンで子供の時はバスケットボールをしていたらしいが、18歳ですでに代表入り。バレーボールを初めた年齢ははっきりと調べられないが、おそらく14、15歳とみられ、バレー経験3、4年で代表入りしたと考えられる。2m級の選手なら期待してという意味で、なくはないだろうが、セッターでってのはやっぱり異常である。


その後は徐々にステップアップして、20/21シーズンからはルーベに移籍。今季とはほぼセッターのみが変わる陣容になるため、ブルーノとどう違うバレーボールを展開するのか、それを確かめることが今から大変楽しみである。



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