まぁ、しつこいと言われてもしょうがないですよ。
先日のエントリーが難しい、意味がわからないという意見を結構いただいた。反省。
というわけでFC東京の、標準からは少し変わったフォーメーションを具体的に解体していく。
橋場 上場 大庭 | |
木村 前田 山岡 | 福田 |
これが今年のサマーリーグ決勝のJT戦で用いたフォーメーション。前衛左からレフト・センター・ライトと並ぶいわゆるフロントオーダーになっている。
上場 木村 橋場 | |
前田 大庭 山岡 | 福田 |
次にこれがもしバックオーダーを採用した場合の仮想フォーメーションである。非常に一般的なものである。多くのチームがこの形を用いている。実際に用いた上図のフォーメーションは、下の一般的な仮想フォーメーションに比べて、どんなメリットがあり、どんなデメリットがあるのか、具体的にみていく。
メリット
1.橋場選手がセッター前衛の時、前衛になることがない。
先日のエントリーで書いたように、おそらくこのフォーメーション最大の目的は、攻撃力のある選手が常に前衛に来るように。バックオーダーでは、橋場選手がセッター前衛の時に2回前衛になる。橋場選手が攻撃力のない選手とは言わないが、サーブレシーブの要もこなすので、レシーブ後に体勢を崩す事も少なくない。このフォーメーションであれば、橋場選手の体勢を崩されても必ず前衛に攻撃力のある選手を準備できる。
同時にセッターと橋場選手が二人とも前衛というローテーションがなくなるということは、竹下-高橋(み)対角と同じ論理で、ブロックの高くない選手が2枚前衛にあらわれる機会がなくなる。
2.上場選手がレフトから打つ事がなく、前田選手もライトから打つ事がない。
左利きのオポジットがレフトから打つ事があまり上手でないのは、バレーボールの不思議の一つだ。だって右利きのオポジットは上手にライトから打つのに。多くの左利きのオポジットを持つチームが、オポジットがレフトから打つS1でスタートする事を嫌い、一つ回したS6でスタートする。あのレゼンデがS1の左利きのアンドレに右利きのアンデルソンのワンポイントアタッカーを用いていたことからもこれは全世界でも似たような状況だと思う。
ただこのFC東京の用いているフォーメーションでは、上場選手が前衛の3ローテすべてでサーブレシーブからの攻撃はライトから打つ事ができる。セッター前衛の時は、(リベロの位置にこだわらずに)レセプションフォーメーションさえいじれば、前衛のサイドスパイカーはレフトからでもライトからでも打つ事ができる。
前田選手はライトから打つことは苦手ではないが、彼の変わりに入る選手の事を考えれば、大きなメリットだ。なにせ練習の効率化だってはかれるのだから。
デメリット
前回言ったように完璧なフォーメーションなど存在しない。
1.橋場選手の前衛の回数が一番多くなってしまう。
4番ポジションでスタートする選手が、一番前衛の回数が多くなる。
攻撃力の高い選手を4番ポジションからスタートはセオリーの一つだ。しかし守備の要である橋場選手が前衛の回数が一番多くなってしまう。スタートローテーションをずらせばいい話だが、そもそも身長が低いセッター山岡選手を一番前衛の回数が少ない1番ポジションからスタートさせるためのこの選択。なかなかずらせるものではない。
2.相手オポジットに対峙するのが、橋場選手になってしまう。
前述の4番ポジションのセオリーに、多くの場合相手は従ってくる。そしてVリーグではそのポジションに外国人オポジットを置くチームが多い。つまり相手のエースに対するマッチアップブロッカーが、守備の要として入れている橋場選手という事になってしまう。バックオーダーの布陣であれば、マッチアップブロッカーになるのは前田選手の方が多い。
3.セッターの移動がかなり難しい。
通常のフロントオーダーではセッターのセットアップ位置の移動が難しいのはS5だけであるが、オポジットが守りの要であるFC東京フォーメーションでは、S6でもセッターは中央でサーブレシーブする選手の後ろから出て行かなければならない。速いサーブでセッターの出所を狙われることは致命的なことにもなりかねない。
たしかに前田選手はスーパーエースタイプの選手であるが、このFC東京のフォーメーションは彼がその攻撃力にも関わらず、ある程度サーブレシーブできるという才能に依存している。たとえば前田選手のかわりに阿部選手や高取選手を用いることはサーブレシーブのバランスから言えば不可能だ。全てのサーブをリベロと橋場選手(土屋選手)の二人だけでさばくのには当然限界がある。前田選手のポジションに入るのは、サーブレシーブのできる鎌田選手であり、三上選手であり、福田(裕)選手になるだろう。前田選手がいるためにスーパーエースの併用と思われるこのフォーメーションは、ライトから打つ攻撃力の高い選手と、レフトから打つ攻撃力の高い選手を対角に組ませるにはどうしたらよいかという発想の終着点でもある。つまりはバレーボールの分業化をさらに進めた形でもある。しかしながら同時にジェネラリストの不在がもたらした結果であるとも言えるだろう。
前田選手と上場選手の併用はたしかに魅力的ではあるが、それはスーパーエースの併用ということにはならない。もし仮に外国人オポジットが来たとしても、その選手と上場選手の併用というのはかなわないだろう。結局はその外国人選手か、上場選手、阿部選手、高取選手という選択になってしまうと思われる。ただ噂の彼が本当にセンターもこなせるのであれば、さらにおもしろいフォーメーションを見せてくれるかもという期待はある。
*1:ちなみにこの中央でとる回数の差がいわゆる「2と5」の配置を決める要因にもなる