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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

きょうのセッターその40 ペーター・ブランジェ



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時代を変えたセッターといっても過言はないだろう。
205cmの長身で1996年アトランタオリンピックを制したセッター。
大きいだけのセッターならいくらでもいる。ブランジェは大きくて、上手くて、そしてインテリジェンスがあった。
ブランジェの高い位置からのセッティングは、満点の精度とは言えなかったものの、相手ミドルがその軌道を見分けることは困難を極めた。
決して鈍重ではなく、ボールの下に早く入り、肘をあまり使わず、手首と肩の強さからくる球の出の良さでスパイカーを使い分けた。


彼を史上でも屈指のセッター足らしめたのは、アリー・セリンジャーとベベト・デ・フレイタスという二人の名将によるところが大きいだろう*1*2
80年代後半オランダ代表監督だったセリンジャーは代表選手をクラブに参加させず、基本的には代表チームにのみ専念させ、徹底的に鍛えた。その結果、世界的には無名であったオランダ代表がヨーロッパで5位になり、ソウル五輪でも5位、次のヨーロッパ選手権ではソ連を破っての銅とその存在感を示したものの、さすがにしんどすぎたのか、セリンジャーの在任期間の後半は、常に代表に専念させるというスタイルは破綻し、選手たちは各々のクラブに散っていった。


1990/91シーズン、ブランジェはイタリアのカターニアでプレーしていたもののあまり振るわないものだったらしく、イタリアのトップチーム、パルマに移籍したのだが、それはブラジル人監督であるベベトによる抜擢だったという。
ブランジェはこの時点で28歳だったわけで、代表でもまだアリーの息子のアビタル・セリンジャーが上げる時が多く、若い時から抜群にすごいというわけではなかったのだ。やっぱりこの89年の試合見ても、途中でアビタル・セリンジャーに変えられるし、ちょっと良い大きいセッターという感想を拭えない。このパルマでの5シーズンが彼を飛躍させたように思える。
ベベトのもとで当時ブラジルの十八番であったはやい攻撃を習得し、ダルゾット、ブラッチっといった名選手とプレーし、5年の間で2回スクデットを獲得した。
ちなみにこの頃、ベベト監督からイタリア語でl’abbassatoreというニックネームをつけられたらしいのだが、直訳すると「下降装置」?となる。意味がよくわからない。下にセットをするくらい高かったという意味だろうか。


1992年のバルセロナオリンピックはブラジルとの決勝では、アビタル・セリンジャーが上げているので、当時はアビタルが正セッターと思われている節があるが、実際はブランジェが正セッターだった。しかし、準々決勝のイタリア戦で負傷してしまったのだ。
結果、オランダは決勝まで進むもののブラジルに敗れてしまい、セリンジャーもオランダチームを離れた。
ここから雪辱に燃えたオランダだが、1996年のアトランタ決勝までワールドリーグ以外の世界大会とヨーロッパ選手権の決勝はすべてオランダ対イタリアだった。93年のヨーロッパ選手権、94年の世界選手権、95年のヨーロッパ選手権、ワールドカップ。しかも全部イタリアが勝った*3。96年のワールドリーグでオランダがイタリアを92年以来はじめて破り、優勝した。
そして、1996年のアトランタ五輪での伝説の決勝、イタリア戦


引退後、クラブやオランダ代表の監督を務めたが、ロンドン五輪の出場権を逃し解任された後、IT企業で働いたり、スポーツイベント会社のマネージャーを務めた。直近ではオランダサッカー協会のパフォーマンス&イノベーションマネージャーなる職についていたが、契約期間を満了することなく職を解かれてしまったようだ。アトランタで金メダルをとったアルベルダ監督もオランダオリンピック連盟のディレクターを務め成功した。またアルベルダはサッカーで有名なヒディンク監督に請われ、ロシア代表のGMもしたが、こちらは失敗したようだ。いい例、悪い例あるがオランダという国は、スポーツの人材を有効活用しようというビジョンがあるのだなぁ。


ブランジェとボールがいなかったら、もしかしたらセッターの平均身長は今より10cmくらい低いかもしれない。もしかしたらジャネッリやクリステンソンもセッターしてないかもしれない。それは言い過ぎかもしれないが、少なくとも目指すべきものを作ったという意味では、大型セッターの数を明らかに増やした功績があると思う。とはいえ、2m級はいても、2mを超えるブランジェ、ボールクラスのセッターはまだ出てきていない。どちらのセッターも素質は若いときから見せていたものの、本格的に花開いたのは20代の後半から。なんだかんだ言ってもやっぱり大型セッターには我慢が必要だと思う*4

*1:U.S. VOLLEYS PAST DUTCH, SELINGER - Chicago Tribune

*2:Peter Blangè, l'abbassatore - Metropolitan Magazine

*3:ワールドカップは決勝がないがイタリア1位、オランダ2位

*4:そう考えるとやっぱりジャネッリとクリステンソンは異常