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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

きょうのセッターその16 ニコラ・グルビッチ

Nikola Grbic


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マイベストである。
1973年旧ユーゴスラビア生まれ。シドニー五輪の金メダル。チャンピオンズリーグは2回優勝、イタリアで2回優勝。


目を見張るようなスキルを持つわけでもない。魔法のような手を持っているわけでもない。落ち着き払った所作。静かなるリーダーシップ。
思い入れが存分にあるぶん、やっぱりグルビッチが個人的には一番のセッター。シドニーが最初に見た五輪決勝だったので、どうしても強いセッターのイメージが美化されている部分もあるが、残っている。


いろんなセッター見てきたけど、私好みのセッターを一言で言い表すならやっぱり”裏番長"なんだと思う。目立つことはないのだが、チームの肝をしっかり押さえる。
裏番長になるのは簡単ではない。勝ち気が勝りすぎるとどうしても番長化してしまうし、かといって自分を消しすぎてもいけない。
あの時のシドニーは兄グルビッチに狂気じみたカリスマがあって、若いミリュコビッチに勢いがあって、ゲリッチ、ブエビッチは仕事人で、という個性のあるチームで裏番張ってのたのは、弟グルビッチだ、セッターってすげー、と海外バレー素人ながらに思ったのを覚えている。


セットで面白いのは、グルビッチはボールを待つときでも、あまりボールに正対をしない。レフト側を向いてボールを待つ。
バックセットでもほとんど体の回転を使わないので、セットの局面で肩が回ることがほとんどない。なので、ちょっと硬い印象を持たせる。ちょっと不器用気味というか。
ただその分、癖がなくほとんど似たような姿勢で高いところから、ヒッティングポイントにセットする。
ミドルへのセットは若干問題はあったけど、晩年はパイプをうまく使ってミドル替わりにした。


グルビッチが、思ったほど監督として成功していないのは不思議ではある。たいていの名監督と一緒に選手として仕事してきたグルビッチだったら、セルビアでも、ヴェローナでももうちょっと突き抜けると思ったのだが、そう簡単でもないのだろう。監督としてはもうちょっと番長化してもよいのかもしれない。

きょうのセッターその15 ミハル・マスニー


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アルゼンチンのサンチェスがあんまり小細工しないようになった今、現役で一番トリッキーという言葉が似合うセッターはマスニーといっても過言ではないだろう。マルーフだろ、という向きもあろうが、あれは結果的にトリッキーになっていることが多く、トリッキーを志向するという面ではマスニーのほうが上かな、と。ウィリアムとは微妙に迷うところだけど。
1979年生まれの今年40歳。スロバキア生まれだが、昨年ポーランド国籍を得た。40歳にも関わらずクラブと3年契約を結んだ。
契約を更新したクラブは19/20シーズン途中で移籍したクラブなのだが、それ以前はザビエルツェ、古賀選手のプレーしているクラブにいた。


意外性を重視し、アンダーハンドからのクイックも多く使うし、難しい選択をいくつもする。やはりその分というべきか、セットが低くなったり、打てない、という局面も少なくはない。
なので、スパイカーを選ぶというか、波長の合う選手が多ければ、活躍するタイプといえるかもしれない。クビアクなんかと一緒のシーズンは成績もよかったと思う。
今シーズン、昨年よりスパイカーの質は上がったのだが、昨年より悪い成績となってしまったザビエルツェの問題はそこいらにあったのかもしれない。

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ほぼまぐれではあろうが、クビアクに上げた足でのセット。


とても良いセッターだとは思うのだが、残念ながら、優勝するタイプのセッターではない。
スパイカーの能力を100%発揮させるというより、相手ディフェンスを機能させないほうにパラメータを振っちゃってるので、下位チームでたまにアップセット起こすタイプのセッターになってしまった感じ。
なんか悪口ばかりみたいになってしまったが、好きなセッターだし、48歳くらいまでプレーしてほしい。

きょうのセッターその14 ハビエル・ウェベル



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アルゼンチン 1(25:27 30:32 25:21 11:25)3 ロシア
2000年シドニー五輪の準決勝、アルゼンチン-ロシア。ロシアが勝つのだけれど、これが惜しい試合なんだ。ブラジルを準々決勝で撃破したアルゼンチンがロシアにも肉薄する。
デュースを経た1、2セット。3セット目は獲得するが、4セット目は力尽きた。この時のアルゼンチンはミリンコビックがミドルに入って、実質オポジット的にプレーするちょっと変則気味なフォーメーション。
コンテの父ちゃんなんかもプレーしているんだけど、この時のセッターがハビエル・ウェベル。


181cmとは言われてるんだけど、もうちょっと小さく見える。175cmくらいしかないんじゃなかろうか。
最近ではコーチとしてのほうが有名になってきて、来季はブルーノの移籍するブラジル、タウバテで指揮をとるのだけど、その試合でのコーチングぶり、動画から見るプレーぶりを見ると、冷静と情熱の間という言葉が似合うように思う。
だいたい情熱のほうに振り切れてる気がするけど。



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動画は97年のワールドリーグなのだが、ジバがリベロしてる! リベロは正式には98年からなのだが、96年から97年にかけて、いくつかの大会のテストをしている。
まだまだ若いリカルドも見られるので、なかなか面白い動画。


セットは特筆すべきこともないが、ステップが素早くてミドルを使える範囲が非常に広い。
このあたりの時代(90年台中盤くらい)からみんなやっぱりボールへのタッチ時間が短くなって、変にボールを持つようなセットはほとんどなくなった。
シンプルに、ボールを速く出す。相手ブロックをひっかける、というよりは的を絞らせない。


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動画をもう一本。2002年、アルゼンチン開催の世界選手権。予選リーグでイタリアを撃破するというもの。ウェベルはこの世界選手権が実に5回目の世界選手権、18歳で始めて出て、この時38歳。この大会で引退したのだが、なんというか覚悟がすごい。
地元開催で最後というのはあったのだろうけど、鬼気迫るトスというのだろうか、そういうものを感じさせる。もう38歳だから、3セット目終わったら足がつってんだよね。
最初のほうだけど、1分43秒のセットとか胸暑ですな。
これで予選1位抜けしたんだけど、準々決勝でフランスに敗れてしまった。


ウェベルは、監督として、違うチームで計7シーズンリーグ王者になっている。ブラジルのトップチーム、タウバテでも結果を出すようであればブラジル代表監督の座も見えてくるのではないか。

きょうのセッターその13 ベンジャミン・トニウッティ


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フランスのセッター、トニウッティ。
フランスってなぜいつも良いセッターが出てくるだろう。このシリーズでもすでに1人挙げているが、トニウッティを除いて、あと2人は確実にこの後書くだろうし、2人迷っている選手がいる。ピュジョルはいれないけど。
トニウッティは183cmとそこまで大きくないが、軽快なフットワーク、正確なセッティング、リーダーシップ、勇気のある選択。近年のフランスの躍進の原動力であるだろう。イメージ的には90年台イタリアが強かった時のセッター、トフォリとかぶる。ちょっと個人的+失礼な話で申し訳ないのだけど、彼を見るたびになぜかJFK暗殺のリー・ハーヴェイ・オズワルドをなぜか思い出してしまう。



トニウッティのクラブ、ポーランドのザクサ・ケンジェジン コジレは決してスターの集まりというわけではないんだけど、なぜか勝つ。メンツから言えば、他のワルシャワだとか、ベルハトゥフのほうがちょっと良いはずなのになぜかタイトル取る。
彼をひとことで表すとするならば、「やるべきことを心得ている」セッター、だろうか。自分の能力と限界をわきまえ、相手の弱点に自分たちのストロングポイントを丹念にぶつけていく。なかなか簡単にできることではない。
ただ、年始の五輪予選ではすこし精彩を欠いていた。単に近年成長目覚ましいブリザールのほうが良かったのかもしれないが、ちょっと気になるところ。


セットは結構回転しながら上げることも多いのだが、これはたぶん軸というか芯の意識が強いから、回りながらでも上げられるのだろう。
後はバックセット。肩の柔軟性が良く、前のほうのボールを一瞬の動作でバックセットに。これはなかなか誰でも真似できることでない。


注目してほしいのは、些事といえば些事なのだが、彼がセットをした後の動きである。動画を見ていただければわかるだろうが、必ずステップを踏んでブロックカバーの態勢をとる。もちろんどんなセッターも教えられることなのだが、彼ほど厳格にそして愚直にカバーの態勢をとることのできているトップのセッターを私は知らない。やはり自分の上げたトスのボールウォッチャーになってしまうのかもしれないし、トップになればなるほどスパイカーの質も上がるのだから、止められないとタカをくくってカバーの動作をしないのかもしれない。ただ、そうやって失点している場面を何度も見ている。
変わるのはせいぜい1試合で1点2点の話だろうが、そういった部分までさぼらずにちゃんとしているセッターは非常に好感が持てる。

きょうのセッターその12 ジェフ・ストーク

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(アメリカ黒のセッター 10番 )



彼の代名詞は何といっても、左利きから繰り出されるツーアタック。ここぞとばかりに打ちまくる。イメージではもっと身長あると思っていたけど、調べてみると190cmと今となれば平均サイズ。
トークが前衛の時は、相手としても常にツーアタックを警戒せざるを得ないので、ブロックは相当苦労したとは思う。
トークアメリカ代表として、ロス五輪を優勝したドヴォラックの後を引き継ぎ86年あたりから、チームのスタメンの座を掴んだ。そのあとは、ソウルの金、バルセロナの銅などを獲得。イタリアでもプレーし、パルマスクデットを獲得している。


アタッカーを引っ張るタイプのセッターと、アタッカーに引っ張ってもらうタイプのセッターっていると思うんのだが、ストークは完全に後者で前任のドヴォラックは前者だったと思う。少なくとも動画で見る限りでは。
でも、それがこのチームにとってうまく回る関係だったように思う。引っ張る、引っ張ってもらうというのが、どちらが良い悪いという話ではない。年齢やスキルの問題はあるけど、どちらかといえば人間性の相性の問題だ。アタッカーとの相性によっては、めちゃくちゃハマる時もあるし、崩壊することもある。やっぱりストークが上げてるときはキライ、ティモンズ、バックらがうまくリードしてたのかなぁというのは感じる。


持論だけど、セッターが引っ張るチームが勝つときって圧倒的に勝つんだけど、あまり長続きしない印象。なんていうかスパイカーがだれてきちゃう的な。セッターが王様になりすぎちゃうところもあるんだけど。
ドヴォラックがそうだったとは思わないけど、アメリカはいいときにストークに引き継いだのかな、と。


ボールとの接点はそこまで高いわけではなく、顔に近い。バックセットも反る角度がなかなかきつい、あたりが特徴だろうか。
決してセットの精度が高いとは言えない。ただ、多少それを差し引いてもツーアタックは魅力だし、ブロックをあまり気にせず、アタッカーの能力を出させることを第一に考えていただろうから、この下のイタリアでの試合も結構フィットしている。
ゾルジがいい仕事してるんだ、これが。
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最近はあまりツー打ちまくるセッター見ていないので、そろそろ見たくなってきたな。