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バレーボール(主に男子)をいろんな視点から見ていくブログ

きょうのセッターその36 フェルディナンド・デ・ジョルジ

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途中から出てくるイタリアの4番。
もっとじっくりプレーを見るならクラブの試合を。




イタリアセリエAで今季中断するまでトップだったルーベ・チヴィタノーヴァ。2019年の世界クラブ選手権も優勝、コッパ・イタリアも優勝しており、チャンピオンズリーグと合わせて、シーズン4冠の可能性もあっただけに、中断はなんとも残念な結果になってしまった。そのチヴィタノーヴァの指揮を執るのが、きょうのセッター、「フェフェ」の愛称で知られるフェルディナンド・デ・ジョルジである。
最近のお姿小手伸也感が強い。


1990年代に世界選手権を3連覇したイタリアだが、その3大会(1990、1994、1998)すべてにメンバー入りしているのは、ジャーニ、ガルディーニ、ブラッチ、そしてデ・ジョルジの4人だけだ。
特にブラッチとデ・ジョルジに関してはあまり試合に出ることのないバックアップメンバーだ(ブラッチは1998結構出たけど)。試合にあまり出ないのに、12年間続けて入るというのはそれだけ必要な選手だったのだろう、と言いたいところだが、面白いものでデ・ジョルジは1988年のソウルにはメンバー入りしているものの、1992年バルセロナ、1996年アトランタ、2000年シドニーのオリンピックにはメンバー入りしていないのだ。たまたま世界選手権の年だけ調子が良かったのだろうか。
さらにこのあと2002年の世界選手権にもセカンドセッターとして出ている。おそらく世界でセカンドセッターとして世界選手権に4大会連続で出たセッターというのは他にいないと思う。


デ・ジョルジは178cmとセッターとしても小柄な方。当時205cmのブランジェが金メダルをとって、セッターの大型化はトレンドと化していたのにそれでもよく生き残ったものだ。イタリア代表でもトフォリやメオーニ、ヴェルミリオの控えがほとんどであったが、要所でチームを救う活躍をしていたはずである。
はずである、というのも、そもそもイタリア代表で試合に出ている映像というのがほとんど見つからないのだ。
それでもなんとか見つかったのが、1998年日本で開かれた世界選手権の準決勝イタリアーブラジル。途中から出てきたデ・ジョルジがリズムを変えてフルセットで決勝に進出した。やはり当時25歳だったメオーニに比べるとミドルの使い方が上手い(デ・ジョルジは当時37歳)。


小さくて上手いけれど、当時のあまり大きくないセッターに見られた天才的な上手さではなく基本に忠実で、どんなボールでも諦めずに追いかけて、セットアップしたあとには必ずサボらずにフォローに入る。そんな姿勢が評価されてこその4大会連続のセカンドセッターでの代表入りだったのかもしれない。

きょうのセッターその35 フィタル・ヘイネン


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赤いチーム2番



ポーランド代表監督として2018年世界選手権を制し、セリエAの1、2位を争うペルージャの監督でもあるフィタル・ヘイネン。
世界一の選手と言っても問題ないであろうレオンの、代表の監督でもあり、クラブの監督でもあるわけだ。いまや、世界をリードしている監督といっても過言ではない。
妥協をしないコーチングでも、クレイジーさでも、思っていることをはっきりと言う正直さでも、そのユーモアでも注目の的であるヘイネン監督だが、現役時代はセッターとして成功している。

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ベルギー生まれのヘイネンは、選手としてのキャリアのほとんどを、生まれたマーサイクで過ごした。10年の間で、8回のベルギーチャンピオンになり、ヨーロッパチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)でも2回準優勝など輝かしい成績。選手の間はほぼクリスティアンソン監督のもとでプレーし、引退後、ヘイネンが1年アシスタントを務め、翌年そのままマーサイクの監督になった。そう考えると、ヘイネンの監督としてのスタイルとアンディッシュのスタイルというのはやはり似ているところがある気がする。


動画をみると、セッティングは硬質なイメージ(というか動きもちょっと硬い)で左右の手の力差を活かしたサイドセットが特徴でそんなハンドリングでよくドリブルしないなと感心せざるを得ない。横にスライドしながら上げるところなんかは、同じベルギーのセッターですでに紹介しているデペステレと似たようなところがある。
緩急つけたジャンプサーブも高い効果を上げている。ブロックはちょっとイマイチかな。


多くの国民が複数言語を話すベルギーが母国ということもあるが、5ヶ国語(英語、オランダ語、ドイツ語、フランス語、イタリア語)を操り、ポーランド語も覚えつつあるヘイネン。それでもなおポーランド代表監督としてポーランド語をまだ習得していないことをポーランドのファンに対して、申し訳無さを感じている。そこにはコミュニケーションをより簡潔に、より深くとりたいという欲求、もしくは目論見が働いているのだろうと思う。それは優れたセッターとして当たり前のことなのかもしれないし、グループのリーダーである監督に必要な要素と深く関わりがあるのかもしれない。

きょうのセッターその34 ウィリアム・アルホーナ

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ウィリアム・アルホーナは今年41歳になるブラジルのセッター。リオ五輪の優勝メンバーでもあり、彼がサダ・クルゼイロに所属していた2015年くらいは世界クラブ選手権を連覇したりと、ブラジルのトップセッターの一人である。「El Mago(魔術師)」の二つ名で有名でもある。
いわゆるyoutube受けの良い、インパクトのあるプレーをするので、ハイライトだけ見ているとトリッキー寄りと思われがちであるが、基本的にはしっかりと堅実に上げるセッターである。
ただ普通のセッターよりアイデアの幅が広いので、突飛に見えてしまうときも多いかもしれない。トリッキーといえばトリッキーなんだけど、ボールを持ってタイミングをずらすとかそういうことはしてなくて、スパイカーが普通と変わらず打てる範疇の中で、ブロックを迷わせていくバランスが絶妙。


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姿勢の見せ方がうまくて、後傾しながらのフロントセット、前傾からのバックセットがうまいのだが、やはり横からの映像だけではわかりにくいので、リプレイをよく見ないとわからないということも多い。



アンダーハンドからのクイックなんかでも、いつもスパイカーが助走をしっかりしているというのは、もちろんそんな状態からでもセットしてくるという信頼からくるものだが、やはり普段からの接し方が関係しているはずである。もし、ミドルが助走していなくて「なんで入ってないんだ!」なんて練習から怒るようなセッターだったら、試合でも一歩、半歩タイミングが遅れてしまうと思う。
プライベートは知らないのでおそらくではあるが、ウィリアムは普段から徳を積んでいて、みんなから好かれるようなセッターなんだと思う。


彼もラファエルと一緒で、もしブルーノがいなかったらなんて思ってしまうが、ウィリアムやラファがベンチにいるからこそブルーノが自信満々でプレーできてたってのはあるよなぁ。

きょうのセッターその33 アントワーヌ・ブリザール

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ブリザールは2セット目14-17からコートイン(1時間1分くらいから)。1セット目も少し出るけど。


昨年のヨーロッパ選手権を見たあと、今年の正月の予選をフランスが勝ち抜いて東京に来ることはないと思った。お恥ずかしい話だが、正直言ってフランスは終わった、と思っていた。しかし、そんなチームを救ったのが今年26歳になったブリザールだ*1
フランスはチームとして倦怠期の状態に入っており、お互いにお互いを知りすぎた状態というべきか。トニウッティもこのスパイカーはここで上げても決まらないといった記憶を重視しすぎて、単調なセッティングになってしまう。単調になっても決まらないから、トリッキーに走ってスパイカーが打ち切れないという悪循環。


オリンピック大陸予選の準決勝スロベニア戦。トニウッティで2セットを失い、絶対絶命の状況からブリザールが出て逆転した。
前述の状態にブリザールが入ってくることによって、一旦すべてをリセットすることができた。先入観なしに、状況に応じた最適なセットをすることでスパイカーが生き生きとしだした。
特にミドルに息を吹き返させたことが大きい。トニウッティはあまりルゴフとシネニエズをあまり信用できていなかったが、ブリザールがシンプルにミドルを使うことで、彼らが自信を取り戻し、ブロックでも存在感を示し始め、相手ミドルも彼らを無視できなくなり、フランスのサイドの決定率も上がった。
極めつけは5セット目、ブリザールの3本連続のサービスエースで勝負を決めた。


この試合をくぐり抜け、決勝のドイツ戦はブリザールが先発し、ストレートの勝利で東京五輪の出場権を掴んだ。
ブリザールがいなければ、フランスは東京に来ることはできなかっただろう。かといってレギュラーを掴むかといえば、それはまた違う話。精度的にはトニウッティにはまだまだ及ばないし、ブリザールが上げたようにトニウッティもまたはじめみたいに先入観を捨てたセッティングができれば、フランスはまたもう一段強くなるのだ。


しかし、フランスにとっては待望のブロックが穴にならない大型セッターであるし、サーブも武器だ。
肘に載せるようなバックセットはトニウッティも得意だが、かなり前の方でボールとコンタクトするので、ブロッカーは判断しにくい。


20/21シーズンからはサンクトペテルブルグでプレーすることになるブリザール。ロシア代表の強化プロジェクトの一貫でもあるビッグクラブに招かれたブリザールに代表監督のサムエルボは何を期待したのだろう。少なくとも世界のトップセッターになる道のりを順調に歩んでいることに変わりはない。

*1:ルアティもだけど。

きょうのセッター番外編その4 ニミル・アブデルアジズ


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ミラノでのブレイクで、今や世界で十指に数えられるオポジットになったであろうオランダのアブデルアジズも、ほんの数年前までセッターだった。
代表のセッターがオポジットに鞍替えして、また代表入るなんてのはなかなか見られないケース。


2015年のヨーロッパ選手権では普通にオランダのレギュラーセッターとしてプレーしていた。
セッターとしてはエジプトのアブダラあたりと同カテゴリという感じで、サーブが鬼強い、それが一番評価のはじめに来てしまうタイプだった。

まだ10代の時には、イタリアのトレビソやクネオが目をつけて、ちょっと唾つけておこうかみたいな感じでプレーさせていたが結局花開かず。2015シーズンからフランスのポワチエに所属していたわけだが、年明けにちょっと異変が起こる。きっかけは怪我人だったとかそんなことだと思う。突然アブデルアジズがサイドプレーヤーとしてプレーし始めたのだ。この試合なんかはセッターでスタートして、2セット目からはサイドでプレーというなかなかチャレンジングな采配。このシーズンは最終的にはまたセッターとして終えるのだが、おそらく監督が説得して、本格的にオポジットとしてのプレーを始めた。


翌シーズンの活躍を受けて、当時ミラノの監督だったジャーニからオファーを受け、イタリアに帰ってきた。
その後の活躍は目を見張るもので、19/20シーズンは得点数トップで、日本からのオファーというガセも立派な信憑性を帯びていた。
長い手を目一杯活かしたスイングでコースも幅広いし、パンチあるしで手がつけられない時がある。


こういった昔はセッターしていたけど、スパイカーで大成功みたいな選手は、たいてい才能がありあまるのでセッターにしてみたが、性格的にちょっと向いてなかったという理由が大きいわけだが、あまり若い時にスパイクの繰り返しで消耗をしていないという要因も多少はあると思う。やはり肩や膝は消耗品という側面もあるので、若い時に負荷をかけてそのまま伸びなかった、なんて例もなきしもあらずだろう。ただザイツェフにしろ、アブデルアジズにしろ、ハードパンチャーすぎて消耗うんぬんはあんまり関係ないかもしれない。


アラブの石油王にもしなったら、それこそザイツェフとアブデルアジズのツーセッターでイタリアリーグ参戦なんて夢を見たいものである。